新型コロナウィルス感染症の拡散が止まらない時期に病院広報が住民の健康のために発信できる情報について考えてみたいと思います。不正確な情報やデータが不安を煽り、不安と実態を混同した意見や投稿が入り混じってメディアやオンラインに増加しています。今、新型コロナウィルスに不安を感じている患者には医療機関の病院広報としてどんな情報発信が可能でしょうか。
病院広報戦略 を正しく展開しているか?
病院広報は緊急事態に何ができるか
患者・住民が求めている情報は記載元がはっきりした正確な医療情報を必要としています。それでは住民はどんな情報を求めて、テレビや新聞、オンラインで探しているのでしょうか? その答えは一般的には次の項目が推測できます。(行政でするべきことは分けて考えています)
- 罹患するか否かの環境や可能性(小児・妊娠中・高齢者・既往症)
- 罹患したらどのような症状か(既往症がある場合と無い場合)
- 家族が罹患したときの対応
- 自分が感染したときの不安について
- 具体的予防策と改善策
- 罹患しても仕事ができるのか
- いつ収束するか
- 周辺医療機関、および院内では何が起きているのか
上記の他に、最も深刻な経済的な影響、コミュニティーへの影響、日常生活への具体的影響等、医療に関係が無いことが不安に含まれています。また急性期病院と慢性期病院ではさらに別の質問が出ると思われます。
通常、病院広報ではホームページは病院のお知らせや特徴などを多く投稿されていますが、本来広報はそれ以外に患者のための医療情報およびコミュニケーションが基本であるはずです。従って今回のように緊急事態とも言えるときには、少し踏み込んで情報を提供することがコミュニケーションの基本であり、信頼構築に必須と考えております。
新型コロナウィルスは危機管理の一環であり、リスク・コミュニケーション、またはクライシス・コミュニケーションとして広報部門にその対応が決められています。
現在、新型コロナウィルスに関しては主にホームページで見かけるのは下記のような項目が多くありました。
- 新型コロナウィルス感染症の疑いがある患者を保健所、または相談センターへ誘導
- 面会中止
- 自院の感染症対策の説明
新型コロナウィルスが解明されていない現在、検査の流れ、治療法について明確なQ&Aが無いときに上記以外を表記することは困難な面があります。
しかし、上記の内容では住民の知りたいことは網羅しておらず、別途電話等で問い合わせがきています。理由は多くの情報が既にテレビや新聞、インターネットで得られますので、本当に自分だけはどうなのかを知りたがっています。実際東京都のデータを見ると相談の電話は約2000件くらいありますが、その中で検査を実際する患者は極めて少なくなっています。今は治療法など実態が見えない(理解できない)ことでの不安が増加していると言う患者の行動心理を考えた情報提供が必要です。
特にPCR検査をして欲しいとの「依頼」がありますが、医療機関によっては対応していないことをわかりやすく表現していない結果、問い合わせしていることがあります。本来は行政機関がきちんと説明をするべきと思いますが、結果として住民は医療機関へ問い合わせしています。従って厚生労働省へリンクを貼るだけではその目的は達成できません。検査までの流れの参考には東京都のホームページが参考になります。
さらに詳細な情報提供を効果的に実施するには患者の状態に合わせた回答でなければ満足しません。それを解決するためにペイシェント・ジャーニー を考慮することが必要です。
ペイシェント・ジャーニー は患者の行動を心理的、社会的、経済的な面から仮説を立てて効果的なペイシェント エクスペリエンス(患者体験)を提供していくことです。ペイシェント ジャーニー は全ての患者に納得してもらうことが必要ですので、患者行動を細かく分析し対応する解決策を用意することが必要です。すなわち患者のプロファイルを多く用意して、ターゲットを決めていくことが必要です。
2020年の3月初めの時点で政府は3密と言われる閉鎖空間や人込みを避けることを訴え、都内の感染症患者を扱う状況がひっ迫してきています。企業、アウディ、ワーゲンなどはブランドコミュニケーションの一環としてソーシャル・ディスタンスのメッセージを出しています。
ターゲットのプロファイル(ペルソナ)
どのようなプロファイルまたはペルソナを設定するを決めるには、診療科の医師など医療従事者にインタビューして関連情報を集めることが初めのステップです。当初考えられるのは下記のようなプロファイルが考えられます。
- 小さな子を持つ両親
- 住民で不安に思っている人
- 休めないビジネスマン
- 50歳以上で糖尿病など既往症がある患者
- 在宅介護をしている方
- 風邪をひいている患者
- クラスターでの濃厚接触が疑われる可能性がある人
- 海外旅行から帰ったばかりで体調がすぐれない人
- 各国外国人
- 日常のストレスに加えて新型コロナウィルスで精神的に追い詰められている人
- 職員
上記のペルソナに対応するペイシェントジャーニー を設定する、特に最も悩みが多い部分は何かを探すことが必要になります。
ペイシェント・ジャーニーは例としては次のような状況から始ります。
- イベントの自粛・学校の閉鎖・新型コロナウィルスの実態把握(関心)
- 日常生活の変更への不安・予防方法収集
- 自粛解消時期の模索・罹患の不安のための情報収集と受診(行動)
- 将来の不安・周囲の人々との情報交換と状況情報収集
- 家族が罹患の不安と対応
ターゲットとして糖尿病等基礎疾患がある患者や高齢者、小児に関して詳細にわたって記載します。大部分の医療機関のホームページの掲載内容に帰国者・接触者相談センターを指定していますが、現在はつながらないことが多いとのことですので、代替えになる連絡先の併記でペイシェント エクスペリエンスを向上させることができます。
2.のように不安な人、新型コロナウィルスに罹患したと心配な人には東京都のサイトや関東労災病院が参考になります。相談窓口に行く流れがわかります。さらに自院の診療科目の患者を考えてペイシェント・ジャーニー の接点から発信情報を検討していきます。
表示例
感染動向の状況を心配方には東京都のこのサイトがグラフで表示されておりわかりやすくなっています。またこのグラフは自院のホームページに簡単に貼り付ける構造になっています。次のグラフをご参照下さい。また忘れやすいのは海外の方向けの情報です。独自に作成することは手間がかかりますので東京都のサイトを参照またはリンクすることをお勧めします。英語、中国語、韓国語の説明もありますので海外の方への説明もリンクをするだけでできます。
病院の現状
日本では東大病院のような表現が多く見受けられます。
一方で、米国のジョーンズ・ホプキンス病院の新型コロナウィルスの感染地図はとても有名ですので、一度見ていただきたいと思います。
不安に感じている住民へ、疾患の特長、症状、予防、検査、まだ確定していない治療法などのきちんとした情報提供を推進することが、住民の不安を解消し、医療提供側にとっても不要な電話に忙殺される病院担当者を減少させることで生産性をあげて信頼を得ることができます。更にコロナウィルス患者と一般患者を分けていくためにも、明確な意思を表明していくことが必要です。
次の動画はAha Media Groupが提案する 新型コロナウィルス拡散時の医療コミュニケーションについて提案しています。
その目的はあくまでも患者の意思決定を助けるような情報発信を心がけるよう提案しています。そして以下について気を付けるべきとしています。
- 必要な時に、または必要としているときにだけ情報を提供する。
- あらゆるその他の広告は中止し、発信する情報を精査する。
- パンディミックに関連することだけを発信する。
具体的な事例など、下記の動画(英語)「新型コロナウィルス拡散時の医療コミュニケーション」をご参照下さい。
Webinar: Healthcare Communication During Coronavirus Examples & Ideas
その他ここでは、参考になる事例をいくつが上げているので、新型コロナウィルルス拡散時におけるペイシェント・ジャーニー理解に参考になります。
事例はクリーブランド・クリニック、スタンフォード大学、UCLA、ネブラスカ・メディシン、ユタ大学などが網羅されています。
メイヨー・クリニックの場合
メイヨークリニックはクライシスコミュニケーションにおけるソーシャルメディアの使い方について記載しています。
Twitterの「非常時のブランドコミュニケーションのヒント」
「新型コロナウィルス(COVID-19)が拡散するなかでの、ブランドによるコミュニケーション方法とは」としてツイートする際のポイントを9項目挙げています。
- 形態に合ったアプローチをする
- 患者・住民の潜在的なニーズを捉えた内容を取り入れる
- 世界で「いま」起きていることを常に知る
- 模範となる機会を捉える
- (信頼できる)知恵を共有する
- 付加価値について考える
- トーンに気を配る
- 患者・住民の行動の変化を予測する
- 誠実な姿勢を示す
患者住民へのメッセージと広報
住民へのメッセージは、発生時➡拡散時➡自主規制➡外出規制など局面が変われば、発信する情報も追加、変更する必要があります。
新型コロナウィルスの場合は既に拡散が始まって、いつ都市閉鎖になるかの時期の厳しい時期の発信はリスクマネージメントがあれば従い、なければ早急に発信情報またはPRに関するメディアプランを作成する必要があります。
特に今回は比較的症状が少ない20代の若い人の動きが拡散に大きく関与しているとおもわれるが、彼らにどのように伝えるかなど戦略的に検討することが必要と考えますので、これに留意して行動変容を促す発信が必要です。
まとめ
- 信頼する医療機関からの正しい情報によって、住民は混乱をきたすような情報や不安を煽る投稿を判断する力が強化されます。ここではあくまでも広報にとっての患者中心の医療、リスク管理、BCP(事業継続)の視点でとらえております。
- 更に医療機関にとっても患者の関心に対応することは患者エンゲージメント強化、信頼構築に貢献します。病院情報は現場の医療従事者を守る意味でも、自院の治療方針を明確に伝えていくことが重要です。さらに「患者」と言うカテゴリーでは無く「一人の患者」にフォーカスした情報提供が効果的です。
- 広報、総務の少ない人的リーソスでこのような一歩は大変なことは理解していますが、リスクマネージメントのみならず、広報として医療そのものを守っていくには多様な意見と正確な情報配信が必要と考えております。また最も不足しているのは経営者への報告(分析と事実関係)
- 3月初旬で複数の医療機関が機能しなくなった状況で新型コロナウィルスを「危機」と捉えるならば危機管理の一環として、患者へのメッセージを通り一遍のものから少し丁寧なものに変えていくことに留意する必要があります。「クライシス」として考えるならより強いメッセージが必要です。もし病院広報に危機管理がなければ、もう一度病院の理念を確認してみることが必要です。
- 病院広報業務では患者を集めることが良く言われてきました。あるいは日本の病院マーケティングの別の意味は集患でした。それはコトラーのマーケティングで言えばバージョン2にあたります。しかし今は患者にもっとフォーカスする、つまりこのような危機的状況ではよりコミュニケーションを増やして、エンゲージメントを高めることが必要です。危機感が最高に高まっている状況では日ごろの広報の危機管理の成果が試されるときでもあります。
- 新型コロナウィルスのパンディミックが宣言されたころから、医療従事者の新型コロナウィルス感染を疑う差別、批難(スティグマ(STIGMA))されていることが報道されました。このことは残念なことですが、人間の社会行動からみた分析を根拠に、医療機関・介護施設としてどのような対策があるのかリスク管理やBCPで対応できることを明示し、職員が少しでも安心して働ける環境をつくることを意識することが必要です。そのための情報提供を住民や関係者にすることを早い時期から積極的にすることが重要です。
【参考】新型コロナウィルス緊急事態宣言の病院広報とリスク・コミュニケーション
追加:2020.5.21